第63期王将戦七番勝負第3局

エビングハウスという心理学者が、記憶が忘れられていくスピードを調べたそうです。その結果、人は20分で42%、1時間後には56%、9時間後には64%を忘れることが分かったそうです。

つまり夜勉強したことは、翌朝には半分以上忘れているということですね。ちなみに復讐はまず翌日、そして次は1週間後、さらに1ヶ月後というように、だんだん期間を空けてすると効率が良いと言います。受験生のみんな!頑張ってね!

というわけで、記憶をより強固にするため(仮)ちょっと日にちが経ってしまいましたが、王将戦第3局の観戦記です。

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戦型は後手羽生三冠の急戦矢倉。急戦矢倉はいくつか種類がありますが、どれも先手をもって受け切る自信が無いですね。なんといっても先手玉のバラバラな感じが嫌です。しかし不思議と、後手をもって仕掛けてみると、攻め切るのが容易でないんですよね。

 

ということはさておき、最近は上図で▲2五歩なんですね。ちょっと前までは▲7七銀▽5五歩▲同歩▽同角とかが普通だったと思いますが、どうやら昨年の竜王戦で全て後手勝ちだったので消えかけているようです。

まあたしかに、あまり形としての▲7七銀の価値って、この戦型では低いような気はしますね。飛車先の歩交換を受けるだけであって、当たりが強くなってしまうし、角が使いづらい印象です。

そしてここから飛車先の交換をし、なんと前局の相掛かり戦に続く▽8五飛型に!

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いやあ、すごいですね。横歩取りに始まった▽8五飛が、相掛かりはともかく矢倉にまで派生してしまうとは。今シリーズは横歩取りが一局も無いのに▽8五飛シリーズとなってますね。

狙いとしては先手の2筋歩交換に対して、▽4四角〜▽2六歩〜▽2五飛という反撃を用意しているんだとか。それに備えて▲3六歩(▲3七桂を用意)に対して▽5五歩と仕掛けます。

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いやあ、本当に横歩取りみたいですね。後手玉が中原囲いに見えてきましたよ。

そしてちょっと進んで、▽6二金の局面。

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この手も地味ながら印象的でした。後手陣がバラバラなので指しづらい手に見えますからね。

ここで▲6五歩と仕掛けて進んだ下図。指し手が見えないと言われていた局面ですが、羽生さんらしいやわらかい手順が出ます。

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ここから▽6六歩▲同銀▽8六歩▲同歩▽8二飛!

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地味ながら、さっきの局面からこの手順は一生思い浮かばないですね。▽8六歩から飛車を引くのは指せても、絶対▽8一飛とするでしょうし、その前に▽6六歩とすることもないでしょう。

なぜなら二歩渡してのパスは相当に抵抗があるからです。そういう意味でこれはパスではなく高度な手渡しの技術ですね。ぼくがよく▲6三歩というパスをよく指すのは、その歩の価値が低いため取られることが無いという意味もあります。これは本当の意味でのパスですね。

また、この▽8一飛には▲2六角と打たれる手が金取りにならないように、という意味があったようです。どうしても7一の隙の方が気になってしまいますけどね。

そして後手が▽8六歩と垂らした手に対して▲7九玉の早逃げ。さらに後手も▽3一玉と寄った局面です。

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これもしぶいやり取りですね。最近、矢倉で端攻めが増えたのかよくこの▲7九玉の早逃げを見かける気がします。そして▲2四歩▽同歩▲8三歩▽同飛▲8四歩に、本局の決め手となったのが▽3九角!

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以下▲2九飛には▽6六角成〜▽8四飛で次の▽8七歩成が厳しく残るという一手。そこで▲2四飛としてきますが、▽8七歩成〜▽8六歩が細かい手順でした。

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▽8六歩に▲同金は、▽6六角成〜▽7七桂成があるため上図の▲8八金ですが、これが▽8四飛としたときに▲8八歩の受けを消しているんですよね。いやあ、細かいです。

というわけで受けが無くなり後手の羽生三冠勝ちとなりました。こうなってみると、▲6六銀の形が活きていないですね。▽6六歩はあの局面では指しづらいと思いましたが、最終的に効果があったことがわかります。タイトル戦はやっぱり奥が深いなあ、ということでまた!