後手番の四間飛車穴熊5「▲6六歩型/永瀬六段の後手四間穴熊1」

直近で2局も後手四間飛車穴熊を採用した永瀬六段ですが、今回はその1局目である対吉田五段戦を観ていきたいと思います。

20150619a

そういえば永瀬六段はまだC2だったんですね。今期は是非とも頑張って欲しいなと思います。(四間飛車穴熊で)

 

まずは後手番ならではの早めの▽5四銀に対し、吉田五段の選択は▲6六歩。

20150619b

この手は基本的には持久戦を目指した一手と考えていいと思います。居飛車としてはここから▲7八銀から銀冠を目指すパターンと、▲9八香から穴熊を目指すパターンがあります。

本局の吉田五段は▲9八香を選択。

20150619c

個人的に最も興味深い形へと進んでくれました。

以下は▽9一玉▲9九玉▽8二銀▲8八銀▽7一金▲7九金に、なんと▽9四歩!

20150619d

相穴熊戦での玉側の端歩の突き合いはどちらが良いのかいまだによく分かっていないですが、どちらかと言えば「居飛車に利する変化の方が多そう」というのがぼくの個人的な見解。

つまり玉側の端歩に関して四間飛車穴熊としては否定的な見解なわけですが、永瀬六段がこのタイミングで端歩を突いたのはかなり気になります。玉側の端歩は振り飛車に利ありと見ているわけですからね。

そして上図以下▲9六歩に▽7四歩。

20150619e

根本的に▲6六歩型の居飛車穴熊相手には、▽6四歩〜▽6二飛と反発するのが定跡ですが、早めに▽5二金左を入れているとその形が使えません。

この、▽5二金左を入れた陣形からの指し方はかなり悩ましいと思います。対▲6六歩型では左金を玉側に寄せて待機、というのが基本だとは思いますが、攻め筋が無いですからね。

というわけでこの▽7四歩は、なにかの時に反撃の▽7五歩を用意した手とも言えます。飛車がすぐに▽6二飛と回れない形の時は、▽6四歩よりも▽7四歩が価値が高いですね。角交換をすると金を4三に使う可能性もあることを視野に入れると、左金を寄せる前にまずは突きたい歩です。

以下▲3六歩▽4五歩に、なんと▲5九角!

20150619f

この形の相穴熊戦ではあまり見たことのない、というか見たことがない角の転回です。

すぐには意味が分からなかったですが、以下▽4一飛に▲3七角と進んで下図。

20150619v

なるほど、意地でも▽6四歩と突かせないということですね。四間飛車穴熊としては唯一の攻め筋である▽6五歩を根本的に封殺しようという構想でしょうか。

まあ▽4一飛のところで▽6四歩と突き、▲3七角にすかさず▽6五歩(下図)という指し方もありそうですけど。

20150619v2

この方が振り飛車らしい軽いさばきですが、やはり飛車が使えていないのでまずいでしょうかね。

本譜の永瀬六段は▽4一飛から▽6一飛を選択。

20150619g

▽6四歩突かせまいとする吉田五段に対し、それでも▽6四歩を狙う▽6一飛。

これでもう▽6四歩を防ぐ手は無さそうに見えますが、なんとあったのです。結果的には疑問手、もしくは悪手だったとは思われますが、▽6四歩を防ぐ次の一手はどれだったでしょうか?

①▲2四歩 ②▲4六歩 ③▲5五歩 ④▲6五歩

4択問題です。

 

 

 

 

 

 

はい、正解はこちら。

20150619h

▲6五歩!!

これは予想できない一手ですね。意味としては「断固としては▽6四歩を突かせない」ということで▽同銀から▽6四歩とは出来ますが、時間がかかるでしょというわけですね。

逆に言えば、居飛車はこの歩を同銀と取られたら▽7六銀から▽6四歩〜6五歩くらいまでに決戦できないと相当に不利になります。

その決戦の手順とは、上図より▽同銀▲2四歩▽同角▲5五角▽3三桂に▲2四飛!

20150619i

これは凄い手順ですね。

以下▽同歩▲3三角成▽2八飛▲6七金▽2九飛成。

20150619j

一瞬桂損したものの、すぐに▽2八飛から取り返し、龍も出来ているということでこの変化は四間飛車穴熊良しでしょう。

以下は省略しますが、結果は順当に永瀬六段の勝ち。この局面で▽9五歩があるのは大きいですね。結果的には玉側の端歩の突き合いは振り飛車に利ありでした。そして居飛車の仕掛け(▲6五歩〜▲2四歩〜▲5五角)は面白かったですが、やはり▲6五歩は無理があったように思います。

というわけで次回は永瀬六段の後手四間飛車穴熊2局目、対行方八段戦を検討します。それではまた!


後手番の四間飛車穴熊5「▲6六歩型/永瀬六段の後手四間穴熊1」」への4件のフィードバック

  1. 水谷

    △74歩の手の意味の解説が非常にわかりやすかったです!
    吉田五段の▲65歩には驚きました!
    端歩の突き合いは(後手番ですし)何かのときの△95歩(勝負手)を用意しているのかもしれませんね.

    1. H-I 投稿作成者

      水谷さんいつもありがとうございます!
      ▲6五歩には驚きましたね。▽6四歩を封じるのに、こういう考え方もあるのかと参考になりました。
      端歩の突き合いがあると、それだけで手になるので悪くはないかもですね。よく手がなくて困るので、自分の場合はプラスになることが多そうな気がしました。

  2. みな

    やはり振り穴は指す人によってかなり変わりますね〜。僕の中では、広瀬さんの本は決定版の定跡というより、広瀬流穴熊の差し方の本という位置づけになってきています。

    永瀬さんのこの対局はなかなか急所がつかみにくいですね。それが狙いなんでしょうか。
    昔からの本には振り穴の端歩は囲いが遅れて端攻めなどの急戦を喰らうからよくない、とあるので、囲いが終わった段階では端歩を突いても損ではないという考えなんですかね。

    1. H-I 投稿作成者

      みなさんこんばんは。
      確かに人によって指し方が違うなあと思いますが、広瀬さん以外は千日手も視野に入れた消極的なイメージを感じますね。本局の永瀬六段は飛車を6筋に転回して、仕掛けを見せる動きをしていましたけど、菅井六段、斎藤六段の将棋はどれも仕掛ける動きは見せなかった気がします。

      しかし色々とプロの将棋を見ていると、居飛車側の指し方がいまいち統一されていないので、居飛車としても対策に困っているというように見えます。
      端歩に関してはこの将棋だけではよく分からないですね。ただ、本譜の終盤では端の攻防がかなり展開され、かなり四間飛車穴熊側に有利に働いていたように思います。攻めの広がりが出来るのは魅力ですね。

コメントは停止中です。