佐藤九段の引き角戦法対菅井六段の向かい飛車穴熊、今回は中盤戦に突入です。
銀交換後、左金を繰り出して3七の角にプレッシャーを掛けにいった局面。
対引き角戦法に関しては一応結論を出してましたが、先日の王位戦白組プレーオフという大一番で佐藤康光九段の引き角戦法対菅井六段の向かい飛車穴熊という、願ってもいないまさかの好カードで研究していた形が出現!
対引き角戦法には向かい飛車穴熊が最善という結論は出ていましたが、中盤の指し方に関してはかなり難しいと感じていましたので、今日はその菅井六段の指し回しを見ながら、序中盤の指し方を再検討していきたいと思います。
ちなみに先日、愛用のiMacがぶっ壊れて起動しなくなってしまったので、今日の更新から使用するPCを新しく買ったMacbook Proに変更し、今までは将棋ソフトはWindows、サイト構築はMacと、別々に行っていたものを一台に集約しました。というわけで今回からは棋譜画像が変わります。
というわけでスタート!
引き角戦法の研究をした最後の記事が4月6日。あれから約4ヶ月経ってついに引き角戦法相手に研究の成果を披露する機会がやってきました!
とりあえず久しぶりなので、復習しながら自戦記として振り返ってみたいと思います。まずは後手が引き角戦法を明示した局面から。
まだ序盤も序盤ですが、ここで大切な一手がありましたね。
今回は引き角戦法の▲中村亮介五段VS▽糸谷六段戦を研究しながら、対引き角戦法の総括をしていきたいと思います。まずは序盤から。
四間飛車の藤井システムの出だしでしたが、後手が引き角戦法と見るやいなやダイレクトに向かい飛車へ。そしてここから相穴熊へと進みます。
ここがまずは中盤のポイントです。振り飛車は▲3六歩、▲5六歩、▲6五歩を突くのがおそらく急所の形。突く順番もおそらくこれがベスト。
▲3六歩で▽3五角の飛び出しを消し、▲5六歩〜▲6五歩で▲6六銀から▲5五歩の仕掛けを狙うという意味だと思われますね。また▲3六歩には▽3四歩を誘っているような気配も感じます。
ここまでの中村五段の実戦では全て相手が▽3四歩と指しています。(本譜でも)
そして居飛車から6筋の歩交換をし、振り飛車はさらに▲4六歩〜▲4七金〜▲6六銀と、前回と同じ構えになりました。
ということは、6筋の歩交換の有無に関係無く、この構えこそが対引き角戦法の決定版の布陣と言えるでしょう。四間穴熊対銀冠の布陣で向かい飛車に転じたと思えば覚えやすいですね。
前々回に紹介した、左銀を4六〜3七に転回し、左金を5七〜6六へと使う形(下図)も根本の構想としては同じと思います。対左美濃ですが。
そして本譜は▽6二飛▲6八飛と今度は6筋で向かい合い、下図は▽7四歩と突いたところ。
この手が普通に見えて、まさかの疑問手でした。ここから中村五段の華麗な手順が飛び出します。
さて、今日は対引き角戦法で全勝!しているプロ棋士、中村亮介五段の棋譜を見ていきたいと思います。
中村五段対飯島七段の初対決は、四間飛車から中飛車へと変化して勝利した中村五段でしたが、2回目より向かい飛車穴熊を連続採用しています。その1局目がこちら。
まずはダイレクトに向かい飛車に。真の四間飛車党は▽4三銀型を躊躇無く採用できるのがうらやましいですね。しかし後手番だとタイミングがギリギリなので(上図では▲5七角のワンクッションが入っているが、▲2五歩だったらギリギリ)注意が必要ですね。
そして振り飛車は穴熊を目指しますが、、
すかさず右銀を繰り出して攻撃態勢を作る飯島七段。引き角側はこのように、右銀急戦パターンと、穴熊に潜るパターンの2つを使い分けることが簡単にできるのも長所のひとつですね。
次回の電王戦第4局の予告PVで、やけにひふみんが登場してたのが気になってしょうがないH-Iです、こんばんわ!
来年は出場したいと言ってたけど、あそこまでPVで言い切っちゃったら出ないわけにはいかないでしょうね。ひふみんの舌が回らず、どもりまくっているのをうまく活用したPVでした。そのうちYouTubeにアップされたら紹介したいと思います。
さて、今回からは引き角戦法のプロの実戦内容を具体的に見ていきたいと思います。
対策としてはいくつかありますが、四間飛車に振ってからであれば、向かい飛車に振り直して穴熊にするのが一番有力そうで、次に中飛車へ振り直してツノ銀中飛車のように戦うのが第2候補。
これらが有力なのであれば、もちろんダイレクトに向かい飛車や中飛車はさらに有力ですが、ダイレクトに向かい飛車にするのなら飛車を振る前に先に▲6七銀型を作る必要があるデメリットがあり、またダイレクトに中飛車にしたらそもそも引き角戦法にされることはあまり無いでしょう。
まあ所詮1手の差なので細かいことは考えずに見ていきます。まずは一番有名な朝日OPの藤井-羽生戦から。序盤の出だしは▲6七銀型を早めに組んでダイレクトに向かい飛車へ。
ぼくは四間飛車穴熊+▲7八銀型で居飛車急戦を待ち構えたいのでこの序盤は指せないですが、▲一六歩の代わりに▲6八飛としてから▲8八飛でもまあしょうがないかなというところ。このあたりはまた次回以降検討していくとして、ここから藤井九段は素早く5六〜4五銀と繰り出します。
6七が空間になるので最低限の▲5八金左だけ入れての素早い繰り出し。以下▽8四飛▲4八玉▽4四歩と進みますが、この手がどうだったか。
この▽4四歩には▲5六銀とするしかないので、一見居飛車が手得して良さそうなのですが、やはり引き角戦法の長所は争点が無いということが一番大きいと思います。つまり、後で▲4六歩~▲4五歩とすれば争点となってしまうこの▽4四歩は悪手の可能性が高いですね。
以下、振り飛車は穴熊に組み、居飛車は銀冠に組み換えるところで仕掛けの図。
ただの一歩交換なのですが、やはりこの▲4五歩があるのは振り飛車としては相当に大きいと思います。以下実戦は先手の藤井九段の勝ち。
序盤の素早い▲4五銀で、▽4四歩の悪手を引き出したのがうまかったですが、仮に▽4四歩を突いてくれなかったら、この動き出しは効果が薄いのではと思います。つまり決定版では無さそうですね。
今日の将棋電王戦「豊島七段 VS YSS」は、今回初の人類完勝!
いやあ、本当に良かったです。序盤中盤を徹底的に研究、対策を施し、圧倒的にねじ伏せましたね。一見簡単に勝ったように見えますが、強気の指し手を早指しで連発するなど、研究と対策がバッチリで、これは相当に凄いことだと思います。
それにしても事前対局を1000局近く指したということで、さらに驚きですね。とにもかくにも良かったの一言に尽きます。88888888(パチパチ⇒ハチハチ⇒88、というニコニコ動画の拍手の擬音)
はい、、ということで今回からは引き角戦法のプロの実戦を研究していきたいと思います。とりあえず 将棋の棋譜でーたべーす さんで検索をかけたのですが、引き角戦法の序盤の形は多岐に渡るので(振り飛車の飛車の位置でも四間飛車だけでなく向かい飛車や中飛車、三間飛車もあるし、駒組みの種類も多い)なかなか大変でした。
まだ全ては調べ切れていないですが、直近だと女流棋戦が多そうです。多いと言っても年間数局レベルですけど、、。そこで飯島七段著の 新・飯島流引き角戦法 の巻末に掲載されている「引き角戦法のデータ」をチェック。
これがなかなか興味深いデータでした。まずは引き角戦法の主な採用棋士のデータ。(段位、戦績は共に2009年当時、分かりやすく千日手と持将棋は割愛)
飯島六段 16勝6敗
浦野七段 2勝3敗
三浦八段 1勝1敗
木村八段 2勝0敗
伊藤能五段 1勝1敗
主なといっても、ほとんど飯島さんですが、さすがの高勝率ですね。木村八段の2勝0敗も気になります。そして次に対引き角戦法、つまり引き角戦法を受けている側の主な棋士データ。
藤井九段 2勝3敗
櫛田六段 1勝4敗
佐藤和五段 2勝2敗
中村亮五段 4勝0敗
中田功七段 0勝3敗
横山五段 2勝0敗
そもそもこの戦法は、三浦九段が藤井九段に使ったのが始まりらしく、さすがミレニアムを開発した三浦九段といったところですね。両戦法共に▽5三角のポジションが似ています。
まずは藤井九段が5局も指しているので、その対策が気になりますね。そしてこの中でも特に、中村亮介五段の4勝0敗が光ってます。横山五段の2連勝もなかなか。
とりあえず最も気になる中村五段の4勝の将棋と、横山五段の棋譜をチェックしました。
中村亮介五段のデータ
1局目 2005年 対飯島七段:▲引き角戦法対▽四間飛車から中飛車へ
2局目 2006年 対飯島七段:▲引き角戦法対▽向かい飛車穴熊
3局目 2008年 対飯島七段:▲引き角戦法対▽向かい飛車穴熊
4局目 2009年 対糸谷六段:▽引き角戦法対▲向かい飛車穴熊
横山五段のデータ
1局目 2003年 対飯島七段:▽引き角戦法対▲向かい飛車+美濃囲い
2局面 2003年 対飯島七段:▽引き角戦法対▲四間飛車穴熊からの向かい飛車穴熊
まず中村五段ですが、この対中村五段戦を除けば引き角で16勝3敗の飯島七段に3連勝、さらに糸谷六段にも勝っていることを考えると、ポイントは向かい飛車穴熊ですかね。どれも最初から向かい飛車にしていました。
さらに横山五段も全て向かい飛車。しかも2局目は四間飛車穴熊のスタートであり、まさにこのブログのテーマにぴったりの展開で要チェックです。
ちなみに引き角戦法で有名な朝日OPでの藤井九段対羽生三冠の将棋も、藤井九段の向かい飛車穴熊での勝利でした。
というわけで、プロの実戦データから見る結論として最も有力なのは「向かい飛車にして仕掛けを封じ、穴熊にする」ですね。
さらに飯島さんの引き角戦法の棋書は2冊ありますが、一冊目の発売が2006年12月末、2冊目が2009年8月末。1冊目には対向かい飛車の記載があるものの後手番向かい飛車は無く、穴熊に対しても10ページのみ。前述の朝日OPの藤井羽生戦の解説が7ページありました。
そして2冊目は先手引き角戦法の中に向かい飛車+美濃囲いの記載が少しあるだけ。つまり、飯島さんが向かい飛車穴熊に対して解説しているのは2冊中、10ページの解説+朝日OPの解説7ページのみ。これはあやしいと言わざるを得ないでしょう。
そんなわけで次回はこの気になる向かい飛車穴熊の実戦の内容を見ていきます。ではでは!